住宅用火災警報器の設置によって、火災による犠牲者数が43%減少するというデータがある※。 平成18年の消防法改正により、住宅用火災警報器の設置が全国一律で義務化。それから10年が経過し、当初の機器が寿命を迎えようとしていた頃だった。
住宅用火災警報器は一般ユーザーが触れるものであり、ホーチキにとって「顔」とも言える重要な位置づけの製品である。交換の需要をきっかけに、火災による犠牲者の減少を念頭としたさらなる普及を目指して、新型住宅用火災警報器のリニューアルプロジェクトがスタートした。
開発チームのサブリーダーとして指揮をとった町田開発研究所の松田が、当時のプロジェクトを振り返った。
※総務省消防庁HPより(http://www.fdma.go.jp/html/life/juukei.html)
「ホーチキ製品の強みって何だろう?」
開発を始めるにあたり、まずは他社製品とホーチキの従来品を見比べ、自社製品の強みをチームメンバーと一緒に検討するところからスタートした。
「ホーチキ製品の強みって何だろう?とメンバーみんなで考えました。
ホーチキの住宅用火災警報器は四角と丸の間のような形状で、壁にも天井にも違和感なく取り付けることができます。スピーカーの穴の形状も特徴的で、丸みを帯びています。これらの要素が、ユーザーへの“優しさ”につながっていると考えたんです。そういった部分は、今回のリニューアルでも踏襲することにしました。」
そして、いくつかの課題も見えてきた。
「凸凹した従来品の形状は、部屋に設置した際に目についていました。それをもっとフラットにして、部屋に溶け込むデザインにしたいと考えたんです。そのうえで、一般ユーザーが使いやすいように設計する必要がありました。
また従来品は、スピーカーのワイヤーひとつとっても、はんだ付けを手作業で行わなければならず、熟練した技術が必要でした。それをなるべく人の手がかからない構造にするために、自動ではんだ付けができるように再設計する必要もありました。」
これらを踏まえ、松田たちは“部屋に溶け込み、誰にでも使いやすい設計”、そして“より製造しやすい設計”を念頭に置き、開発をスタートさせた。

自身の専門分野を超えた協力関係
今回の開発は、“商品開発計画プロセス”と“商品開発プロセス”という2つのプロセスで分けられた。
まず、商品開発計画プロセスで製品の仕様を明確化。それを実現するにはどのような部品、設計、品質が必要になるかを検討し、開発にあたっての技術的課題の抽出と対策の検討をおこなう。
商品開発プロセスに移ると、ものづくりが始まる。商品開発計画プロセスでの考えを実現するため、製造・検査工程も含めた品質を確保するための細かい設計をおこない、試作と評価を重ねる。その後、生産工場で量産試作をおこない、信頼性試験を経てはじめて開発が完了となる。
「電気、構造、ソフト、生産技術の各分野から集まってできたチームは、私も含めて過去に住宅用火災警報器の開発に携わったことのないメンバーばかりでした。
そのような状況のなか、それぞれの担当分野を超えて、新たな視点で意見やアイデアを出し合いながら試行錯誤を繰り返しましたね。」
“どんな部屋にも溶け込むフラットな薄型にする”という製品デザインのコンセプトを決めたものの、開発当初はメンバーの経験が不足していたため、従来品に対してダイナミックな変更を加えることに躊躇していた。
「最初の試作品は、中途半端な薄さになってしまったんです。それを見た上司から、『そんなもので満足していいのか!』と喝を入れられました。
そこからは、みんなもう血眼で。性能を損なわずにどこまで薄く、小さくできるかを、全員で知恵を出し合いながら議論を重ねました。」
命と直結する製品だからこその品質
「ホーチキらしい優しいデザインを継承しつつも、一般ユーザーが使いやすいようにするにはどうしたらいいかを改めて考えました。
例えば、ボタンの形状はもともと真四角だったんです。壁や天井に設置して、それを下から指で押しますよね。でも真四角だと、指で押すという動作に適していないんじゃないかという話になって。
そこで、下から指を当てた際に指の形にフィットするような縦長の丸型に改良しました。それが押すためのボタンであるということを認識しやすくし、指にフィットするようにくぼみもつけました。」

実際に製品が使用される場合、火災の要因が様々であることはもちろん、温度や湿度、ホコリやノイズなど環境も様々だ。
また、調理時の湯気やタバコの煙など、空気中に存在する様々な気体を火災と判断しないように設計する必要があった。
「いろいろな火災や環境に対応するため、火災を模した実験や回路・基板の設計などを繰り返し、評価用ソフトをいくつも作成して実験を重ねました。
煙(気体)を判別する実験では、湯切りした湯気がかかる位置に警報器を取り付け、実際にパスタを茹でて動作実験をおこないました。寒い部屋の中で、パスタをザバッと湯切りするんです。その実験の期間は毎食パスタでしたね。(笑)」
「他の感知器と違い、住宅用火災警報器は一般のユーザーが購入して使うものです。どのような環境に置かれても信頼性のある動作をするべき製品である以上、品質は非常に重視しました。命と直結するものですからね。」

チームで積み重ねた議論と信頼
今回開発した新型住宅用火災警報器 SS-2LT は、その改良されたフラットなデザイン、設置のしやすさなどからお客様の評判もよく、また、製造面でも従来品と比べてコストダウンと量産体制の強化につながっている。
「意見がぶつかり合い、険悪な状態になったこともありました。そんなときは、全員が納得いくまで、何時間もかけて熱く熱く議論を繰り返しましたね。
課題や問題に直面した状況のなかで、チーム全体で議論してお互いにフォローし合っていけば必ず乗り越えられるんだということを、今回のプロジェクトを通して強く実感しました。
プロジェクトが始まって初めて関わるメンバーも多くいましたが、本当にいい人たちに恵まれて。だから最後までやり抜くことができたんだと思います。」
人命を守る製品の開発。そこに一切の妥協をしないという、松田をはじめとした開発チームメンバーの強い意志と助け合いが、今回のプロジェクトを成功に導いたことは間違いない。
※所属部署・役職は取材当時のものです。

松田 豊
技術生産本部 町田開発研究所
開研・無線技術開発チーム 担当係長
PROFILE
2013年入社。開発研究所センサ開発部に所属。
2014年12月から新型住宅用火災警報器の製品開発プロジェクトチームでサブリーダーに。回路設計のメイン担当も兼務。現在は無線技術開発チームに所属し無線機器の開発に従事。
プライベートでは二児の父。子供たちとのヒーローごっこに夢中。趣味は魂を込めたギターの弾き語り。